建築業界豆知識~文学作品に描かれた建築から、暮らしの原風景をたどる~第2回 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』に学ぶ、日本家屋の美しさ
黒宮建設です
私たちは日々、「明るくて快適な家」を求める時代に生きています。
しかし、文学の世界には、あえて光を抑えた空間に美を見いだした作品があります。
谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』です。
『陰翳礼讃』で語られる日本家屋は、
深い軒、障子越しのやわらかな光、
そして、暗がりの中に浮かび上がる質感や陰影が特徴です。
強い光で照らし出すのではなく、
「少し足りない光」の中で、
ものの美しさや落ち着きを感じ取る。
それは、住まいにおいても同じではないかと感じます。
現代の住宅は、性能が向上し、
照明ひとつで部屋を明るく照らすことができます。
けれど、夜になり、照明を落としたとき、
ほっと心が緩む場所はどこでしょうか。
和室の床の間、
障子越しに届く外の気配、
時間帯によって表情を変える室内。
『陰翳礼讃』を読むと、
住まいは、すべてを見せないからこそ落ち着く
という感覚を思い出させてくれます。
私たち地域の工務店が、
和室のリフォームや古民家再生に携わる中で大切にしているのも、
まさにこの「陰」と「余白」です。
明るさだけを追い求めるのではなく、
その家に暮らす人が、
静かに心を整えられる場所をつくること。
日本の家は、
四季の移ろいや、天気、時間の流れとともに、
住む人の気持ちに寄り添ってきました。
『陰翳礼讃』に描かれた住まいは、
決して過去のものではなく、
今の暮らしの中にも取り入れられる知恵が詰まっています。
この町で暮らす皆さまにとって、
家がただ「明るい場所」ではなく、
心が休まる場所であるように。
文学が教えてくれる住まいの美しさを、
私たちはこれからの家づくりにも活かしていきたいと考えています。